平成29年告示の新しい小学校学習指導要領では、探究的な学習の重要性が強調されています。探究的な学習では、各教科で習得する資質・能力を相互に関連付ける学習姿勢が求められますが、算数が果たす役割にはどのようなものがあるのでしょうか。
探究的な学習を行うにあたって必要不可欠な能力の一つに、「読解力」が挙げられます。読解力とは、一般的には文章を読み解く能力を指します。しかし、教育の場ではより広く、多様な情報から必要なものを抽出し、理解する能力という意味で解釈されます。探究的な学習では、設定した課題に対して、情報を収集したり、集めた情報の整理・分析を行ったりする必要があるので、まさしく後者の意味での読解力が求められます。
ところで、読解の対象となるのは、日本語や英語など自然言語で書かれたテキストだけとは限りません。国際学力調査(PISA)では、表や図、ダイヤグラムを始めとする数理的なテキストを含めて読解の対象とすると規定されています。探究学習においても、数理的なテキストを読み取れるようになれば、得られる情報の量や質が飛躍的に向上します。そして、この数理的な読解力を養う教科が算数なのです。
今回は、数理的な読解力とはどのようなものなのか、具体例を挙げながら紹介します。
[図1]と[図2]は、2017~2021年における四国4県のミカンの収穫状況を表すグラフです。まったく同じデータから作られた2つのグラフですが、読み取れる情報には違いがあります。
[図1]は、グラフの横軸が収穫量〔t〕を表しているので、県ごとのミカンの年間収穫量が一目でわかります。真っ先に目がいくのは愛媛県の収穫量の突出した多さですが、愛媛県のデータからは収穫量の多い年と少ない年が交互に繰り返されているという特徴も読み取れます。このことを踏まえて香川県・徳島県のデータに注目すると、愛媛県と同様の特徴があることがわかります。ミカンの果樹は、実を多くつけた翌年は養分不足により実つきが悪くなるという性質をもっています。豊作の年と不作の年が繰り返される現象を隔年結果といいますが、[図1]はミカンが隔年結果を起こしやすい作物であることを示唆しています。
一方、[図2]はグラフの横軸の目盛りが百分率になってるので、収穫量を具体的に求めることはできません。しかし、「毎年、四国全体で収穫されるミカンのうち、愛媛県産が約8割を占めていること」などが容易にわかります。[図2]のような割合を表す棒状のグラフを、帯グラフとよびます。
グラフには、[図1]のように「量」に関する情報を示すものと、[図2]のように「割合」に関する情報を示すものがあります。グラフを読み取る際は、どちらの特性をもつグラフなのか見極めることが大切です。
国立教育政策研究所が平成29年に実施した全国学力・学習状況調査で、次のような問題が出題されました。
正答は3番。全国正答率は29.4%とこの年の選択式問題では最も低かった。
「『学年の人数』をもとにしたときの『ハンカチとティッシュペーパーの両方を持ってきた人数』の割合」を表すグラフを選択する問題です。学年ごとの「割合」を表すグラフを選択しなければならない問題ですが、「量」を表すグラフである1番や2番を選択した児童は合わせて33.4%に上りました。※
※国立教育政策研究所,3.教科に関する調査の各問題の分析結果と課題(3)小学校 算数B,平成29年,p.89
国際学力調査(PISA)でも、読解力の分野の問題にグラフや図表が含まれていますが、これらの問題を解くためには、文章を読むだけではなく、数理的なテキストを正しく理解する必要があります。
探究学習では、多角的に情報を読み解く力が求められます。このような力を伸ばすにあたって、算数という教科が担う役割は、今後ますます大きくなっていくでしょう。統計データのあふれる現代において、数理的な読解力の重要性が増しているからです。
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