アメリカ留学時代の恩師から教わった座右の銘
iPS細胞とは、皮膚などの成体の細胞に遺伝子を導入することで、変幻自在にいろいろな細胞をつくることができる能力をもつようになった細胞です。iPS細胞の生みの親、京都大学の山中伸弥教授は、2012年ノーベル生理学・医学賞を受賞しました。2010年には、京都大学iPS細胞研究所の初代所長に就任し、今もiPS細胞研究の陣頭指揮をとります。山中教授によると、研究生活はけっして順風満帆とはいえなかったそうです。だれにもまねができないほどのハードワークをこなす日々のなか、思うような研究結果が出ないとき、山中教授を支えた座右の銘は
VW(Vision & Work hard)
「(VWとは)自分のビジョンをしっかりともって、それに向かって一生懸命努力する、という意味です」と山中教授ご自身が解説されています。
山中教授は大阪市立大学大学院修了後にアメリカ合衆国のカリフォルニア大学グラッドストーン研究所に留学しました。「VW」は、そのときに出会った、恩師であるロバート・マーレー所長に教わったことばだそうです。アメリカから日本に戻り、少ない予算、小さな研究室から、幹細胞研究を始めた山中教授のもとに、優秀な人材が集まったのは、山中教授が掲げた大きなビジョンにひかれたからなのでしょうね。
パーキンソン病、心疾患、貧血などへの臨床試験がスタート
現在、iPS細胞を使った臨床研究が日本国内で続々と進められています。たとえば、国内に16万人の患者がいるとされるパーキンソン病に対しては、2018年に臨床研究がスタートしています。
2018年10月、パーキンソン病患者の脳に、iPS細胞からつくったドーパミン神経前駆細胞が世界で初めて移殖されました。今後、安全性と有効性が確かめられれば、移植に用いる細胞を製剤化して国の承認を得ることを目指すといいます。そのほか、虚血性心疾患や再生不良性貧血など、さまざまな病気に対して臨床研究が始まっています。2019年には癌治療への応用も始まろうとしています。
さらに2019年4月には、東京大学のグループがiPS細胞を利用してブタの体内でヒトの膵臓をつくる研究の開始を発表しました。今ある臓器移植の問題も、将来的にはiPS細胞によって解決されるかもしれませんね。
平成の始まりとともにスタートした山中教授の研究人生とは?
『ブリタニカ国際年鑑 2019』に、山中教授が研究者へと転身した平成の始まりから平成の最後まで、ご自身の半生をふり返った特別寄稿を掲載しています。座右の銘や人生の転機などについて、ご自身のことばで書かれています。さらに、最近の幹細胞による再生医療をまとめた特別リポートもございますので、是非ご覧ください。
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