兵庫県西宮市内には、小学校40校、中学校19校、義務教育学校1校、特別支援学校1校、高等学校2校の計63校がある。GIGAスクール構想以前から指導者用デジタル教材やタブレット端末などICT環境の整備に着手、2017年度には「ブリタニカ・スクールエディション」を導入した。5年ごとに設備の見直しを図る中、2023年1月に再び「ブリタニカ・スクールエディション」を7年間利用できるプランに更新した。導入に至った経緯や現場での活用状況など、西宮市教育委員会 教育研修課で学校情報化推進を担当した吉田将司 元指導主事と谷口麻衣担当課長に聞いた。
西宮市はGIGA以前から教員が一斉指導に使えるデジタル教材を導入するなど、ICT活用を積極的に推進。2015年には各学校に応じてタブレット端末を整備し、調べ学習などいち早く取り組み始めた。当時はまだ台数も活用も限定的だったが、GIGA以降、1人1台環境になったことでICT活用がより身近になり、活用機会も着実に増えていると吉田 元指導主事は説明する。
2017年度から導入したデジタル百科事典「ブリタニカ・スクールエディション」は、市内にある全63校で利用可能。もともとは“教員向け“に導入したのだという。それまで、Web上の情報を資料にする教員が多くいたこともあり、教員にとっても玉石混合の情報を選り分ける手間があった。
小学校の教員でもある吉田 元指導主事は、その頃の学校でICTを使って調べ学習をするとなれば、やはり活用していたのはWeb上の辞典や検索サイトだったと話す。情報の真偽は不明。児童生徒も読みはするけれど言葉の意味がわからなかったり、そのままとりあえず写したりといったこともあり、学びの困難さを感じていたという。
「ブリタニカ・スクールエディション」は、エキスパートによって執筆された確かな情報を収録したデジタル百科事典。調べ学習や協働学習などにも適している。同市では、信頼に足り得る情報源として必要ではないかと検討し、導入に至ったという。
他社製品もあったが小学校向けの傾向があるなど、やや範囲が限定されていた。当時はまだデジタル教材があまり出揃っていない状況でもあった。そうした中、ブリタニカはコンテンツが豊富にあり、精査された上での情報が網羅され、またサーバーへのシステム構築にも対応していたことが決め手となった。教育委員会としては「一択だった」と谷口担当課長は振り返る。何より、ブリタニカは百科事典の世界的なブランド。優れたイメージを抱いていたと吉田 元指導主事も谷口担当課長も声を揃える。
導入後、少しずつではあるが確実に活用が進み始めている。小学校の教員と図書館司書との研修会で「ブリタニカ・スクールエディション」を取り上げたところ、「これは良いツールだ」と評判になり、そこから各学校に広まった。
百科事典はそもそも図書館にもあるもの。しかし紙の本では冊数が限られ、これまでは他の図書館から取り寄せて調べ学習に同市では今回の更新から「クラウド版」が使えるため、家庭での利用も可能になった。吉田 元指導主事は、学校に対して様々な活用シーンのアドバイスができる要素が増えたと話す。もちろん図書館の本で調べることも資料の調べ方の原理原則の指導を含め大切にしたいと谷口担当課長は言う。その上で、ICT活用においては、真偽が判断できない情報が多いWebに頼りすぎず、信頼ある確かな知識の獲得にまずはブリタニカで調べてみる。そうした活用が広がってほしいと話す。
「ブリタニカ・スクールディション」には、厳選された外部Webサイトへのリンクも用意されている。調べてそこで終わるのではなく、関連する情報からさらに世界が開かれていく。“学びの道筋がつけやすい”こともブリタニカならではの良さ。情報の自由度がありながら逸脱しない。そこに使いやすさを感じると谷口担当課長は評価する。
教育現場でたびたび取り上げられる著作物の利用に関する問題。デジタルゆえに素材データのコピーなどがしやすくなったことが原因の一つだろう。西宮市では、教員の研修会などの機会にできるだけ著作権への注意喚起を行っている。教員からは「〇〇を資料で使ってもよいか?」といった問い合わせがあるなど慎重な姿勢が見られるという。
児童生徒には道徳の時間を使って情報モラルに関する学習を実施するとともに、西宮市独自の教材も織り交ぜるなど、各学校で取り組みを重ねている。人権などを含め広く道徳を学ぶ中で、重要なトピックスとして情報モラル・リテラシーも学んでいる形だ。こうした各学校の積極的な取り組みや普段のICT活用を通して、児童生徒にも出典や引用などに対する意識は育まれてきているという。
一方で、動画、写真、イラスト、図鑑なども豊富に収録されている「ブリタニカ・スクールエディション」は、これらのコンテンツを教材などで自由に使えることが特長だ。課題作成、発表など、授業における様々な場面で安心して利用することができ、こうした点からも使い勝手に優れたコンテンツといえる。
1人1台環境となって2年が経ち、子どもたちもICT活用にだいぶ慣れてきた。「ブリタニカ・スクールエディション」を学習の基本ツールとして、充実した学びに繋がれば嬉しいと話す吉田 元指導主事。各教科や図書館とも連動しながら活用の幅がさらに広がってほしいという。
谷口担当課長は、小中の9年間ある中で情報やICTとの“正しい付き合い方”を存分に学んでほしいという。失敗もあっていいし成長してほしい。そこで教育委員会としてできることは、児童生徒も教員も安心して使える学習環境の提供だと気概をのぞかせる。ブリタニカも安心して使える知識の大切なインフラの一つだ。
学習環境の整備は予算やタイミングなど、どの自治体にとっても思案するところだろう。谷口担当課長はインフラを整えることの大切さを説くと同時に、導入に漕ぎ着けるまではやはり苦心があると明かす。
しかし、社会の変化のスピードが速い昨今。そこで、従来から取り入れていた設備の見直しや入れ替えの時期に、本当にそれが今必要か、不要であってもその類いがなくて困らないか、困る場合は代替物があるかなど検討を進めながら、リプレイスのタイミングが新たな設備の導入機会にしやすいのではないかという。また、たとえば何か問題が起きてしまった場合も、それを好機と捉え、懸念される事案を訴求材料に設備を更新するといった方法もあるだろう。
いずれにしても、どのような教育を望むのか明確な信念が要となる。日頃から良質な教材や設備の情報収集のほか、谷口担当課長のような洞察力や俊敏さも導入機会を掴む秘訣かもしれない。ブリタニカと同様に、同市ではこの先も学びのインフラ整備を徹底していく意向だ。
ブリタニカ・スクールエディションは、小学校、中学校など教育機関で利用されているオンライン百科事典です。