最後の最後まで、書くことは「命」であり楽しいことでもあると語りながら作家人生を生き抜き、また僧侶として、楽しい法話を通じて数多くの人々を励まし続けた99年の生涯に、心から敬意を表します。
ブリタニカ・ジャパンでは、1998年に紫式部の『源氏物語』の現代語訳を完結させ、数え年77歳の喜寿を迎えた当時の瀬戸内寂聴さんについて、『ブリタニカ国際年鑑1999年版』で取り上げました。さらに、成立から1000年を迎えた2008年に一大ブームとなった『源氏物語』の魅力を、「『源氏物語』千年の生命」と題して、『ブリタニカ国際年鑑2009年版』にご寄稿いただきました。当時86歳だった寂聴さんですが、各方面ひっぱりだこという、あまりの忙しさゆえに、執筆依頼の際にも本人に直接お会いすることができず、原稿の受け取りも寂聴さん出張先の東京のホテルのロビーにおいて、秘書の方を通じてでした。
「『源氏物語』千年の生命」では、平安時代の婚姻のあり方と、恋愛における貴族女性たちの厳しい境遇や悩み、出家という(男性の目から見た)ある種の反乱が、寂聴さんのすべらかな筆致で語られ、物語の世界をありのままに耽溺できます。そして、『源氏物語』最後部分を飾る「宇治十帖」の解説では、謎めいたこの三角関係(浮舟、薫大将、匂宮)の物語が現代人の罪深い悩みと共鳴するという、時空を超えた魅力的な題材として述べられています。
ご自身はとかくお忙しい寂聴さんでしたが、彼女の綴る文章世界には、平安なら平安の、昭和なら昭和の、平成なら平成の時代のテンポやリズムが巧みに刻まれていると感じます。「『源氏物語』千年の生命」は短い記事ではありませんが、是非一度声に出して読んでみてください。最後の「文化を大切にする国は滅びない。」の決め台詞が、読み手にある信念を求めるべく強く訴えかけてきます。
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